一般社団法人BOAT PEOPLE Association 代表理事
ロンドン芸術大学CCWカレッジ 国際事業担当
1968年鎌倉市生まれ。大学卒業後、テキサス州オースティンの大学院で建築修了。プラントエンジニアリング会社、店舗開発、まちづくりシンクタンクなどを経て現職。ロンドン芸術大学ではアート×技術×国際性をテーマとし、日本企業との産学共同デザインプロジェクトを担当。BOAT PEOPLE Associationでは“都市の新しい水上経験を作り出す“をテーマとして、都市の水辺に対する関心を喚起するアクションリサーチ活動を行っている。

連絡先:
E-mail: genichiide(アットマーク)aol.com

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   青年の主張 「私とBOATの関係」

いきなり白状しますが、子供の頃からとても船が好きでした。なぜかはよく判らないのですが、暇さえあれば船の模型を作ったり、船の雑誌を読んだりしていました。小学生の時に自作のイカダを作り、相模湾に漕ぎ出したこともあります。(30分程で戻ってきてしまいましたが)。ちょっとはずかしいのですが「世界の艦船」という専門誌を定期購読していたこともあります。

中学生の時にディンギー(小型ヨット)に乗り始めました。大半の友人は競技に向かったのですが、競争には全く関心がなく、ただ水面を走ることに快感を覚えていました。

社会人になってしばらくして、東京の芝浦の運河で水上ラウンジLife On Board(LOB)をオープンしたのもそんな流れに沿っていたと言えます。東京の裏町を流れる運河、鉄製の旧い貨物船、自由に使える浮かぶ空間。ここに仲間の居場所を作ったら面白い、と直感的に思ったのがきっかけでした。2年くらい続けるうち、いろいろな人が船に集ってきました。週末は満員になり、人が溢れました。LOBで面白かったのは、見知らぬお客さん同士(営業許可は取っていなかったので、正確には“知人”ですが)がしばらくすると打ち解けて一緒に飲んだりしていたことです。思い出すだけでもLOBで出会い、結ばれたカップルが5組ほどいました。“呉越同舟”とはこのことか、もしかしたら船には自然に人と人を繋げてしまう機能が備わっているのではないか、と思いました。LOBは東京でも知る人ぞ知る、ちょっとした「場」になっていました。都市と水辺の関係に強い興味を持ったのもこの頃です。当初、私と船の関係は非常に個人的で、あくまで趣味的なものでした。

そんな中、LOBが役所から目を付けられて閉鎖せざるを得ない状況になりました。いろいろな事情があったのですが、ここで水面には目に見えないさまざまな法規制、業界団体、商慣習などいろいろな要素が絡み合っている、じつに複雑な世界があることに気付かされました。一見自由だと思っていた水辺は、じつはこれでもかというくらい閉鎖的な空間だったのです。それに気付いた後は、役所の言うところのいわゆる「公共性」や「公益性」に対して「個人の楽しみ」、というコンフリクトの中に身を置くようになりました。

数名の仲間たちとBOAT PEOPLE Association(BPA)をスタートしたのはちょうどそんな「個人」と「公共」が水面で音をたてて軋み始めていたときです。

そんなせいもあり、私個人としてはBPAのテーマである都市と水辺のうえに、さらに「自由」というものを重ね合わせてリサーチするケースが多くなっています。そしてそれは、一見水面上の問題に見えますが、じつは現代の日本に暮らしている私たちの共通の課題でもあると思っています。

今ほど「自由」の価値が重要な意味を帯びている時代はないと思います。それは私たちが教科書で教わった、政治的、制度的な「自由」とはやや異なるものです。捜し求めたいのはもっと精神的で深層的な「自由」です。なぜなら、我々が生きる時代は表層的な自由は一応制度としての担保されているように見える一方、我々の精神ははもっと目に見えない複雑で抑圧的なシステムの中で身動きが取れなくなってしまっている、と思えるからです。

かつて、圧政と戦乱から逃れるためにボートピープルたちは祖国をすてて海に出ました。その時、唯一の脱出手段はBOATでした。いま、我々は現代のボートピープルとなって精神的自由の海に船出しなければならない、そんな時代を迎えているように思えるのです。

BOAT PEOPLE Association
井出 玄一